『昨夜のカレー、明日のパン』木皿泉:人生はちょっとずつ変わっていく

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今週の書評は木皿泉さんの『昨夜のカレー、明日のパン』です。

僕が無知なため全く知らなかったのですが

木皿さんは夫婦のユニット名で

「すいか」や「野ブタ。をプロデュース」「Q10」といったドラマの脚本を書かれている方々。

ユニットで脚本を書くってどういう作業になるんでしょうね。

漫画なら原作と作画みたいに分かりやすいですが

ドラマにせよ脚本にせよ

文字だけの場合の役割分担が気になります。

さて今作『昨夜のカレー、明日のパン』ですが

木皿泉初の小説にして

2014年の本屋大賞で2位に輝いた作品です。

7年前に夫の一樹を亡くしたテツコが

一樹の父であるギフとの生活や

テツコの今の恋人である岩井さんとのやり取りを通して

一樹の死を少しずつ受け入れていく様を描いた連作短編です。

こうやってあらすじを書くと

なんだかとても仰々しい感動作に聞こえますが

どちらかというとコメディータッチで

ちょっと不器用だけど憎めない登場人物たちに

なんだかほっとさせられる作品です。

僕が一番好きだったのは一樹の従兄弟がメインの語り部となる『虎尾』です。

虎尾は語り部の名前だったりするのですが

彼の生活の中に出てくる一樹との思い出や

後半のテツコのとある願いを叶えにいく場面など

この『昨夜のカレー、明日のパン』の根幹をなす話だと思います。

ラストの会話でのテツコ

「それは、つまり、もう一樹はいらないってことなんだよね」

というセリフに込められた様々な意味を考えてしまいます。

直接的に考えれば

もう自分の人生に死んだ夫は必要なくなったということなんでしょうが

次の場面でテツコは一樹のことを一生忘れないと宣言します。

つまり先ほどのセリフは一樹の存在がいらなくなったということでは決してなく

死んでしまった一樹を頼った生き方はしない、

一樹がいない人生を受け入れて生きて行くということなんだと思います。

決してネガティブな意味じゃなく

テツコとしては本当にポジティブな意味で”いらない”という言葉を使ったんだろうなあと。

そしてこの胸中に達するのに7年もの歳月がかかったことに

テツコの一樹への深い愛を見ることができるなあと。

あえて”いらない”という強い言葉を使うことで

自分自身にこれからは一樹に頼らない人生を送っていくと言い聞かせているんだろうなあと感じました。

そしてこのも語りの難しく面白いところは

今まで現実を受け入れることができずに

一緒に暮らしてきたギフとの暮らしをこの後テツコはどうするんだっけ?ということです。

一樹を頼らず生きるということと、

ギフとともに暮らすということが果たしてイコールになるのか?

しかし今更

7年も一緒に暮らしてきた人と離れて暮らすことが可能なのか?

人生をドラスティックに変えることは難しく、

テツコが下した決断とそこにキーマンとして関わってくる岩井さんが描かれる『男子会』も必見です。

久しぶりにザ・エンタメって感じの

心がほっとするような作品に出会えてとても満足ですねえ。

残念なのは木皿さんは本業が脚本家なので

定期的に小説を出されることはあまりないと思いますが

これからも注目していきたい作家さんの一人になりました。

したっけ、またね!

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