『悪意の手記』中村文則:人が知りたい欲求を描く

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今週の書評は中村文則さんの『悪意の手記』です。

中村文則さんといえば『土の中の子供』で芥川賞を受賞。

最近では海外でも評価の高い作家さんです。

しかしながら本当に恥ずかしいことに、

僕はこれまで中村さんの作品を読んだことがなく。

お名前は存じ上げていたものの、

どんな作風かもほとんど知らないという状態。

なんの気まぐれなのか、

本屋で「あー、読んだことないけど有名だよなあ。読んでみるかあ」と思い

今回『悪意の手記』を読ませていただきました。

結論から言って、

中村文則さんはかなり自分好みの作家さんであることが判明!

こういう新たな出会いがあることが本屋の素晴らしいところですよね。

内容としては全編通してとても暗く、

主人公の独白が中心となる構成。

15歳のときに難病を患った主人公が、

死の恐怖から逃れるために世界を否定し、

この世の全てを軽蔑することで、

生きる価値のない世の中に別れを告げることができる=死ぬことは怖くないという理屈で、

死を克服しようとするところから物語は始まります。

その後、

奇跡的に病気は完治するものの、

一度全てを否定した世界に再び舞い戻らなくてはいけないことへの違和感と恐怖から家族もクラスメイトにも以前のような感情を抱くことができない主人公。

そして、

そんな彼を心配した親友のKを発作的に殺してしまし、

彼の人生はより酷く、

荒んだものになっていきます。

この物語の主人公は終始、

人を殺してしまったことに罪悪感を抱き、

それゆえに周囲に心を許すことができず、

かといって自首することもできずに人生を過ごしていきます。

ただ作者の中村さんとしては

もちろん彼のしたことが許されるとは思ってはいないものの、

彼以上にタチの悪い、

人を殺してもそれに苦悩することなく生きていくことのできる人間もいるということを描こうとしています。

主人公は結局、

誰よりも死を恐れ、

死ぬことができないからこそ

親友を殺し

その罪悪感を一身に背負って生きなくてはいけないという名目を作り出すことで

自らの自殺を無意識に止めようとしています。

物語のラスト、

自らの罪を告白し警察に収監される直前に

彼は病気を再発させ手術を余儀なくされます。

でもきっと彼は病気を治し、

その後刑務所で罪を償い、

でもそれで許されると思うことができずに

一生を終えていくんだろうなあと感じました。

こういう小説が愛される理由って、

大多数の人が一生犯すことのない殺人という行為を行ってしまった後、

人はどうなってしまうんだろう?という

自分の知らない負の心理を知りたいという欲望があるからなんだと僕は思っています。

いわゆる禁忌ものというか

人が理解できないような罪を犯してくモンスターが登場する物語って一定の人気がありますしね。

『悪意の手記』の主人公はそんなモンスターではなく、

あくまで普通の人が

病気によって変わってしまい、

殺人を犯した後にどうなってしまうんだろうという部分を巧みに描いているなあと感じました。

内容は異なりますが、

太宰治の『人間失格』を中村さん風にアレンジした感じですね。

人が知りたい欲求。

広告に禁忌を生かすことは難しいですが、

そんな風に手法を一つずつ探っていくこと自体とても勉強になるなあとこの本を読んで改めて感じています。

ネットの評判をみると、

中村文則さんかこの手の禁忌を描くことがとても上手な作家さんのようなので

ちょっとこれから色々読んでみたいなあと思いました。

したっけ、またね!

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